校則について                                                     2000/10/26

(参考:1999年放送大学教材「生徒指導」秦政春著)

※この本の中で使われている「校則」は、生徒手帳に記載されている「生徒心得」を意味している。

@校則に関する歴史的経緯
 現在の校則の原型は1873年に文部省が制定した「小学生徒心得」と考えられる。これには17条にわたる規定がしめされており、朝起きて洗顔、整髪に始まって、登校、校内生活、下校といった様々な心得が列挙されている。現在の生徒心得も基本的な構成に関してはこれと変わりないが、内容の細かさにおいては比べものにならないほど多岐にわたっている。校則の内容が細かくなったのは、昭和40年代の大学紛争が中・高等学校までに波及した結果だといわれている。大学生の権利要求が、中・高校生の権利要求に影響を及ぼし、特に髪型や靴、アルバイトなどの自由化を要求するかたちで波及したと考えられる。髪型がこれまでの丸刈りから長髪に変われば、髪型に関する規定が新たに設けられ、規定そのものが細かくなるのも、ある意味当然のことである。生徒たちの権利要求が逆に校則による管理を強めたとも言える。こうした大学紛争ののち、昭和50年前後の非行。問題行動が急増した時期、昭和57・58年がピークの校内暴力が頻発した時期へと続き、こうした状況の中で、校則の規定はますます細かくなり、校則による管理が強まっていった。いわば、校則を「楯」にした形での生徒指導だった。

A校則の教育的意味

 校則は、整然とした学校運営をはかるための「道具」ではなく、まして、子ども達の生活や行動を管理したり規制したりするためだけのものではない。校則の主要な教育的意味は、校則を通じて子どもたちに規則や規律、社会的ルールの重要性を教えていく事である。しかし、現状は「校則だから守らせる」「守らなければいけない」と言うように子どもたちを規制するだけのものになっている。教師自身も管理されているかもしれない。その結果、校則違反に対して教師は厳しい処罰を加えざるをえず、本来の教育的意味である、規範意識や規律の精神の体得をかえって阻害しているといっても過言ではない。

その意味で、「生徒心得」は「心得集」ではなく「規則集」となり、これに基づいて生徒指導が展開されている学校も少なくない。

B校則に対する意識の実態

〈生徒〉

・校則は厳しい        とても厳しい:26.5%       やや厳しい:36.7%

・校則は細かすぎる     とても細かい:40.5%       やや細かい:37.2%(以上中学生)

・校則は重荷に感じる    (中) よく感じる:20.7%        時々感じる:33.4%

                  (高) よく感じる:25.5%        時々感じる:35.7%

・校則を守っている      (中) よく守っている:18.9%   大体守っている:62.4%
  ⇒なぜ守っているのか   先生に注意されるから31.0%  守るのが当然だから:14.7%  規則だから:22.3%

                  (高) よく守っている:12.5% 大体守っている:62.4%
  ⇒なぜ守っているのか   先生に注意されるから:23.9% 守るのが当然だから:116%  規則だから:18.9%

・教師の指導は厳しいか   (中)とても厳しい:26.7%  やや厳しい:47.4%
                   (高)とても厳しい:31.8%  やや厳しい:44.7%

・服装検査等の実施頻度   (中)毎日:82%. 週1回:129% 月1回:28.7% 
                      学期に1回:21.2% ほとんどない:17.4% 全くない:6.7%

                   (高)毎日:4.6% 週1回:1.6% 月1回:55.7% 
                      学期に1回:20.8% ほとんどない:7.2% 全くない:1.4%

・服装違反の生徒を見ても別に何とも思わない (中)66.1% (高)77.7%


・校則は必要か        (中) と二ても必要:7.1%   やや必要:43.7%  
                     あまり必要でない:31.6%  全く必要でない:15.8%

                  (高)必要:47.9% 必要ない:49.0%

・校則には生徒の意見が反映されているか
                   (中)よく反映されている:8.9% やや反映されている:276% 
                      あまり反映されていない:36.3% 全く反映されていない:23.6%

                   (高)よく反映されている:7,9% やや反映されている:24.5% 
                      あまり反映されていない:35.9% 全く反映されていない:276%

〈教師〉
・今の学校の規則は厳しいか  とても厳しい:3.2%  やや厳しい:18.3%  
                     あまり厳しくない:63.1%  全く厳しくない:9.0%

・規則違反に対して自分自身は厳しいか  とても厳しい:iO.5%  やや厳しい:52.2%  
                            あまり厳しくない:33.4%  全く厳しくない:2.0%

・自分のクラスの大部分の生徒が校則を守っている:79.7%

・学校の規則が厳しすぎると弊害があるか   非常に弊害がある:34.3%   やや弊害がある:48.0%

  ⇒どんな弊害か     子どもの自主性が育たない:42.1%   きまりの本質がわからなくなる:24.8%   
                 子どもの反発が強くなる:14.5%   子どもが被管理者意識をもつ:13.8%

・学校に規則を制定することは必要か   とても必要=25.6%  やや必要:52.9%

・学校に規則がなかったらどうなるか    子どもたちは自分勝手な行動をとる:42.9%   自分たちで規制しあう:16.3%
                           のびのびとしてくる:15,4%     非行・問題行動に走りやすくなる:7.6%

 このアンケート結果には、教師と生徒の意識のズレがあらわれている。生捷たちが、教師の目につく部分だけ規則を守り、要領よく対処している現実からは、校則が規範意識や規律の精神の体得の役割を果たしているとはいえないだろう。


2.校則をめぐる問題

【大阪市の例】
 大阪市には、JHC(Junior High-school Community)−学校に不満を持つ子どもの会−とCEBc(Citizen's Education Board for child)−子どものための民間教育委員会−ヒいう市民団体がある。このグルーブは、教育問題全般について活動しているということである。その活動の一つとして、校則・体罰等に関する資料があったので紹介する。

@大阪府立箕面東高校・染髪を理由とした別室受験問題(1998年)

 箕面東高校において、髪の毛を染めている2年生の女子生徒Aさんに対し、髪を元に戻さないと5月22日から始まる中間テストを受験させない旨の指導があった。このことをテストの2日前に知ったJHCは、抗議文を大阪府教育委員会と、高校側に送付した。その結果、校長は府教委から指導方法見直しの指導をされたが、高校側の対応は「テストを受けさせるが別室で」というものだった。結局Aさんは、22日から28日までの中間テストを全て別室で受験した。
 
同校ではそれまで、校則違反者は授業を受けさせずに帰していたが、この一件をうけて、「放課後に指導してから帰宅させ、場合によっては別室授業をすることもある」という趣旨の文書を配布した。髪を染めている生徒達は、中間テスト後6月5日まで別室での授業を強制されたが、その実態は授業ではなく、教師から髪を元に戻すよう断続的に「指導」されるという状態だった。Aさんは、髪の色を青から栗色にして、学校側はそれを「髪を元に戻した」とみなし、別室授業は解除された。
 
 その後、Aさんに対して、7月の期末テストでは「髪が染まっている」という理、由から再び別室受験を強制、ピアスが取り上げられる等、学校側の指導は続いた。



(資料によると、同校には、「遅刻を10回すると停学にするJという制度があり、また、授業中のクラスを生活指導担当の教師が巡回してまわり、髪型や頭髪などの校則違反者を見つけたら、廊下へ連れ出し指導するという方式がとられてきたようである。)

A大阪市立夕陽影中学校における不合理な校則に関する公開質問状(1998年)

大阪市教育委員会に対して、夕陽丘中学校の生徒心得に関する質問状がJHCとCEBcから提出された。以下はその質問状の一部である。

 私たちは、不合理な校則をなくしていくことによって、子供たちの生活しやすい学校の環境を作っていこうと活動しています。

 さて、大阪市立夕陽丘中学校の生徒心得には、

1.男子の頭髪ぱ丸刈りを原則とする。
2.家から外世する際ぱ努めて通学服を藩帯すること。
3.避難訓練の際は学級副委員長が由席簿を持ち畠すこと。
4.遅刻者は校門で風紀委員に生徒手帳を渡し、放課後までに損任の先生を通じて返却していただき、損任の先生の指導を受けること。

 という記述があります。私たちは、数ある不合理な絞則の中でも上記について特に奇異な感触を得ましたので、今回、公開質問状を出すに至りました。以下の点についてご回管ください。

〈1,2について〉
頭髪規制や服装規定は、子どもの表現の自由を奪い(略)「衣食住jという不可侵であるべき領域にも踏み込んだ極めて不当な校則です。(略)近年、文部省でも校則の見直しを提唱しているところであり、大阪市教育委員会からもそのような指導を各学校に対して行っていると聞き及んでいます。このような動きの中で、上.記1,2のような校則が存在する。ことの意義をお答えください。



 避難を優先し、自らの身を守るべきときに、生命に関係のない学校業務を生徒に補完させることが公的義務教育の場において行われているということであります。この校則を遵守することにより、万が一逃げ遅れなどしたら、教育委員会はどのような責任をとられるおつもりかお答えください。

〈4について〉
 遅刻指導を含め、一般に生活指導等は校務上の行為であり、行政指導の一種と解されるところ、その校務の一端を生徒に補完、補助させることの可否についてお答えください。


<この質問状に対する回答は以下のようである。>


はじめに
  生徒心得全般について、見直し作業を進めており、改正する部分が多い。

1.「男子の頭髪ぱ丸刈りを原則とする」について
   現状に合わない表現なので見直しをはかる。
   運動クラブの一部の生徒は自主的に丸刈りをしている、
   校則を理由に丸刈りを強制していることはない。

2.「家から外出する際は努めて通学服を蒼弔することjについて
   現状に合わない表現なので見直しをばかる。

1.2.の校則が存在したことについて
   見直し作業が遅れており早急に取り組む。

3.「避難訓練の際は学級副委員長が出席簿を持ち出すこと」について
   出席簿は重要な簿冊であり、持ち出しの方法については、見直しをはかる。

4.「遅刻者は校門で風紀委員に生徒手帳を渡し、放課後までに担任の先生を通じて返却していただき、担任の先生の指導を受けることjについて登校指導ぱ学校教育の重要な柱の一つである生徒会活動の一貫であり、生徒会の自主的活動として行っている。生徒手帳の受け渡しについては見直しをはかる。

この一件で、次年度の生徒心得は一部改訂された。(添付資料参考)