教員に求められる資質能力について 11月16日(木) 1.はじめに 現在、学校教育を巡っては、解決しなければならない様々な教育課題が山積みしているとともに、21世紀に向けた教育改革への取組みが大きな課題となっている。 このような状況に適切に対応して行くためには、直接児童生徒の教育に携わる教員の果たす役割に期待されるところは大きく、教員の意志改革や資質能力の向上が強く求められる。 平成11年7月に、100人を対象に東京都で行われた教育モニターアンケートの中でも 様々な教育課題を解決するために、学校としてはどのような対応をとる必要がありますか。以下の項目について、あなたの考えを選んでください。 回答群:(そう思う・そう思わない・わからない・無回答) という問いに対して「新たな課題に適切に対応できるよう、教員の資質能力の向上を図ること」に対して『そう思う』と答えた人が93人と最も多い。
それでは、こうした課題を解決し、子どもたちがのびのびと学ぶことができる環境を整えるためには、児童生徒の指導に直接携わる教員に、どのような資質能力が必要なのであろうか?
2. 教員採用の中に求められる資質能力 今日、様々な教育問題が持ちあがる中で、現状の教員採用試験は、適性ある人物を採用できる制度になっていないのではないかとの批判がでている。このことを踏まえ、現在の採用制度の中ではどのような資質能力の人物を求めているのかを考えたい。 (1)教員採用の現状 教員の採用は、採用の段階で教員にふさわしい優れた人材を確保するため、近年、採用選考の在り方を人物評価重視の方向に改善されてきている。 a.実技試験の改善状況 全国59の都道府県・指定都市教育委員会のうち、ほぼすべてにおいて、小学校の受験者,中・高等学校の実技教科の受験者に対して実技試験を実施している。また、平成11年度試験においては、中・高等学校の英語について、57県市で英会話等の実技試験を実施している。 b.面接試験の改善状況等 · 現在すべての県市で面接試験が行われているが、平成11年度試験においては、43県市で、1次試験・2次試験の両方で面接試験を実施している。 · 平成11年度試験では、45県市において、面接担当者にPTA役員や民間企業の人事担当者、医師、弁護士、臨床心理士等の教育委員会外部の民間人を起用している。 · 平成11年度試験において、面接試験の一部として模擬授業を課しているのが36県市、指導案の作成を課しているのが10県市である。 c.教員の適格性の確保 平成11年度試験においては、教員としての職務の遂行に堪え得るかどうかを判断するに当たっての資料を得るため、52県市において,内田クレペリン検査やMMPIなどの検査が実施されている。また、教員としての適格性を専門的観点から把握するため、b.に示したように、面接試験の複数化や長時間化を図ったり、面接担当者への医師、臨床心理士、スクールカウンセラー等の起用に努めている。
以上から、教員にふさわしい優れた人材を求めるために、教員として有すべき知識・技能を判断するための学力試験だけでなく、人物を判断するための面接試験を中心とした採用試験の実施により、各任命権者が教員として適格性のある人材を確保する努力をしていることがわかる。 それでは、実際に具体的にどのような資質能力を選考基準にしているのであろうか? (2)教育職員養成審議会報告(H11・7) 文部大臣の諮問機関である教育職員養成審議会は、「教員の採用や研修の在り方について」検討してきたが、7月13日総会を開き、報告を取りまとめている。その主なものは次の通りである。 @ 学校教育の成否は、教員の資質、能力に負うことが大きい。いじめや不登校をはじめ、学校を取り巻く問題の複雑さ、困難さに対応できない教員の存在は問題である。 A 各都道府県教育委員会が教員を採用するに当たっては、より人物を重視し、学力試験の結果は一定の水準に達しているかどうか見るにとどめ、ボランティアの経験や教育実習の実績などを加味して人物本位の採用を行う。 B 各都道府県教育委員会は、「今年は、カウンセリングや生活指導の出来る人物が必要」などというように求める教師像を明確にするとともに、選考の透明性を高めるため学力選考基準や学力試験問題を公表することが必要である。 C 臨時採用などで教職を経験した人や、社会人経験がある人は、一般の学力試験をしないで、実績や専門能力を評価する。 D 初任者教員には、年間90日程度の研修が課せられているが、この研修を充実させるため初任者教員には、1人で学級を担任させたり授業を受け持たせたりしないで、副担任などにさせる。 E 適性を欠くと認められた教員については、教育委員会が「継続的に観察、指導、研修、を行う体制を整える」と共に「分限制度の的確な運用に努める」。
以上、社会人採用の枠を設けること、そして研修の見なおしなどについて言及しているとともに、教員採用では、多面的な人物評価を積極的に行う選考にしていく教員採用方法を提示している。 とくにどのような資質能力が必要か、ということを考えると、 ・いじめや不登校をはじめ学校を取り巻く問題の複雑さ、困難さに対応できる人物 ・ボランティアの経験や教育実習の実績がある人物 と推定できる。 また、採用側(=各都道府県教育委員会)において、採用選考にあたり重視する視点を公表することにより、求める教員像を明確化する必要性があげられているため、より具体的に求める資質能力が提示されている。
具体例1:岐阜県 ・明るくて豊かな人間性をもつ人 ・積極的で行動力と粘り強さをもつ人 具体例2:千葉県 ・人間性豊かで、教育愛と使命感に満ちた人 ・児童生徒の成長と発達を理解し、悩みや思いを受けとめ、支援できる人 ・幅広い教養と学習指導の専門性を身につけた人 ・高い倫理観を持ち、心身ともに健康で、明朗快活な人(H13年度・募集要項より) それでは、日々の職務及び研修を通じてどのような資質能力が育成されていくべきなのであろうか? 3. 東京都における人事考課の中に求められる資質能力 東京都教育委員会は、H12年度から、教員の実績を5段階評価して、給与や人事異動に反映させる新しい人事考課制度を実施することを正式発表している。東京都は困難な問題が山積みしていることから、教員の資質能力の向上が不可欠と判断したものである。教員の実績評価を給与や人事異動に反映させるのは全国でも初めてという。 人事考課とは、組織の構成員の実績、能力、意欲・態度などを客観的に把握し、人事管理に適切に反映させる仕組みである。 実際には、教員の職務は広範であり、教育の成果は、すぐに現れるものもあれば、長い期間を要するものもある。そのため、複数の視点で多面的に評価をするとともに、成果だけではなく過程や努力を評価することが大切になる。そのため、新しい人事考課制度においては、多面的な評価やプロセスの評価の重視によって、教員の職務の特性に即した評価を目指している。 具体的には、教員が自ら職務上の目標を設定し、その目標をどこまで達成できたかを自己評価する自己申告と各職務分類を評価項目とする業績評価の2つからなる。 ≪自己申告≫ 記入:年3回・目標設定4/1・目標の追加・変更10/1、自己評価3/31 面接:校長・教頭が面接を行い、申告された目標の方向性や水準、目標の達成等について個々の教員と話し合い、学校経営方針や児童生徒の実態等の状況を踏まえて、具体的に指導する。 ≪業務評価≫ 評価は絶対評価と相対評価により行う。 <絶対評価>:職務遂行を通じてあげた実績やその過程における努力などを積極的に評価するとともに、いまだ不充分な点やさらに伸ばすべき点についての適切な指導育成の方策を見出すために活用する。(直接教員の指導育成に携わる教頭及び校長がそれぞれ第1次評価者及び第2次評価者になる) <相対評価>:業務評価の結果を、給与や昇任等に適切に繁栄させるために活用する。(教育委員会教育長がその責任において行うこととする。ただし、教育長が相対評価を行うに当たって参考とするため、校長は第二次評価(絶対評価)結果に教育長が示す配分率(3段階、全校共通)を適用した資料を作成し、教育長に提出することとする。) 資料参考(評価基準)
以上より、人事考課の際の評価基準から、公が求める資質能力の枠組が見えてきたのではないであろうか? <課題> 4.教員に求められる資質能力は最低限なにであろうか? <前回の復習(教員養成〜教員養成のカリキュラム〜H12.9/28)> (1)何時の時代も求められる資質能力 一般には、「専門的職業である『教職』にたいする愛着、誇り、一体感に支えられた知識、技能の総体」と言われている。 より具体的には、昭和62年、教育職員養成審議会答申において示されているとおり、教育者としての使命感、人間の成長・発達のついての深い理解、幼児・児童・生徒に対する教育的愛情、教化などに関する専門的知識、広く豊かな教養、そしてこれらを基盤とした実践的指導力が、何時の時代にも求められる教員の資質と能力であると考えられている。 (2)今後特に求められる資質能力 これからの教員には、変化の激しい時代にあって、子どもたちに自ら学び自ら考える力や豊かな人間性などの「生きる力」を育成する教育を行うことが期待される。そのような観点から、今後特に教員には、まず、地球や人類の在り方を自ら考えるとともに、培った幅広い視野を教育活動に積極的に生かすことが求められる。また、教員という職業自体が社会的に特に高い人格・識見を求められる性質のものであることから、教員は変化の時代を生きる社会人に必要な資質能力をも十分に兼ね備えていなければならず、これらを前提に、当然のこととして、教職に直接かかわる多様な資質能力を有することが必要である。 こうした考え方に基づき、第1次答申(H11・12)においては,今後特に教員に求められる資質能力について以下のとおり例示している。 |